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相次ぐバス事故の隠れた要因

2016.1.28
執筆者:菅井 憲郎(スガイノリオ)

 

 また、スキーバスの事故があり、14人もの前途ある若者が犠牲になった。

 ツアーバスの事故は、今に始まったことではないが、被害が大きくなるのが特徴である。事故の原因は、根が深い。単なる運転技術の未熟とか、過酷な勤務条件というような表面的なものだけではない。

 バス事業は、小泉内閣時代の規制緩和によって、それまでの免許制から許可制に変わった。どう違うかというと、免許制では、きびしい資格を有する会社だけに事業をすることが認められた。その分、経営が守られていた。

 しかし、その守られていたことが規制だと言って、免許制を許可制に直した。許可制では、バスの台数をそろえるなどの表面的な数を満たすだけで、営業することができるようになった。事業者の経営体質などは軽視されたのである。規制緩和されると、これまでのタクシー事業者やレンタカー事業者をはじめ、多くの会社がバスを購入して、貸切バス事業に参入して、雨後の竹の子のように増えた。

 その結果、全国の貸切バス企業者は、それまでの2,300社から4,500社に倍増した。

 

 一方、バブルがはじけて、デフレ経済が進行すると、低価格競争に拍車がかかった。典型的な事例は、行政の入札制度である。それまでは、実績とか技術力、信用性などが評価されて、指名入札や随意契約されていたものが、これらが無視され、価格だけが求められる入札制に代わった。

 例えば、今度の軽井沢のスキーバスの事故の場合でも、国が示している基準価格は、27万円のところ、8万円も安い19万円で受注したという。実に国の基準から30%も値引きしている。そうでなければ、受注できないのだ。

 

 このため、各社は、経費の抑制に力を入れた。そこで削ったのが、バス車両代、運転手や整備士などの人件費、車両の管理・整備費、燃料費などであった。

 例えば、大手バス会社は、一台4,000万円ほどのバスを購入し、正規雇用の運転手には400~500万円の賃金を払っている。これに対し、新規参入した小規模の会社は、1台2,000万円ほどの中古のバス数台を購入している。

 

 また、運転手は、大手企業を定年退職したり、採用落ちした人を200~300万円程の賃金で非常勤として雇用した。もちろん退職金や賞与は支給しない。

 そのような会社は、経費抑制のために運転手教育や運行の管理、車両の整備にも手抜きした。

 このため、技量不足の運転手が整備不良のバスを運転したり、運行に管理が行き届かず、無理な勤務をさせて、過労による居眠り運転により事故が多発したのである。これ等の会社のうち、適正経営を図るためのバス協会にすら加入しない、つまり、アウトサイダーが半分もいる。

 重大なバス事故が多発するに至って、国交省もバス事業者に対する規制を強化した。

 しかし、それでもなお、事故は起きている。なぜか。実態を無視した机上の規制緩和と対症療法的な指導に行きつく。

 従って、近年のツアーバスの事故をなくすためには、運転手の技量不足とか、道路の構造などの表面的なことに原因を求めるのではなく、現在の貸切バス事業の奥深い所を探らなければならない。

 そうすると、指導能力が欠如した行政や低価格ばかりを要求する世相の責任も見えてくるのである。

 

 稲盛和夫氏の経営哲学に「利他の心」がある。現在のようなデフレ経済から脱却するためには、無条件に「低価格」を求めて、相手の犠牲の上に自分の「利」を得るのではなく、相手の「利」も考える経済・社会を再構築することが必要である。

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